第112章 幸せでいて
『まぁ、今すぐにTRIGGERがどうこうなる話ではないですけど。でもそれでも、ある程度の影響はすぐに現れてくると思いますよ。今日のフェスは、動画撮影が許可されていました。だからアレもすぐに拡散されるでしょう』
「今後のことを今この場で決めるのも無理があるしね。とりあえず事務所に帰ろうか。なんだか、どっと疲れた…」
「俺のせいかよ」
「他に誰のせいだと思うの?」
「体力がない自分のせい、とかじゃねえか?」
「肉体的じゃなくて、精神的に疲れる要素しかなかったんだけど」
「だったら嫌味ったらしい言い方しないで、最初からそう言えよ。大切なファンに平気で嘘を吐き過ぎて、性格が捻じ曲がったんじゃねえか?」
「は?」
そろそろ龍之介の御家芸 “まぁまぁ!落ち着けよ2人とも!” が出る頃だと思ったのだが。彼は懸命に、何か考え込んでいる様子だった。その様子に気付いた2人も、自ずから喧嘩をやめて龍之介の顔を覗き込む。
「あっ、ごめん。ちょっと考え事してた。
それでさ…悪いんだけど少しの間、春人くん…じゃなくてエリと2人で話がしたいんだけど、いいかな?」
「あぁ。分かった」
「楽、そんなふうに即答していいの?
龍とエリ。2人きりで、だよ?」
「は?どういう意味だよ」
「べつに。ただボクなら、楽じゃなくて龍を選ぶって思っただけ」
「なるほどな!よし分かった。俺達はあっちでさっきの続きやろうぜ」
私と龍之介が話している間に、2人が殴り合いの喧嘩でも始めてしまったらどうしよう。
なんて、そんなことには絶対にならないと分かっている私達は、顔を突き合わせて苦笑した。