第112章 幸せでいて
『どの道もう取り返しは付きません。一度口から出てしまった言葉は、なかったことに出来ないんですから』
「なかったことにするつもりも毛頭ないしな」
『あぁそうですか』
「…あんたも、怒ってるのか」
『怒ってないと思えるなら、貴方の脳味噌の構造をぜひ見てみたいですね』
「っ、CTとかで、いいなら」
『はは。
……って、怒ってないわけないでしょうが!!』
「わ、分かってる。
でも、じゃあ教えてくれ。俺はいつまで、ファンに嘘を吐き続けないといけなかった?」
『楽のリアコが居なくなるまで』
「……リアコ?」
楽は首を傾げたが、天は私の言葉に頷いていた。それから、天が龍之介に話を振る。
「龍は、楽の馬鹿としか言いようがないこの世で最も愚かな行動を見て、どう思った?」
「おい。誘導尋問があからさま過ぎないか?」
「お、俺は…」
龍之介は眉根を寄せて、苦しそうにゆっくりと言葉を紡いだ。
「俺は、楽の気持ちも天達の気持ちも、どっちも分かるから」
「うん。そうだね。龍は…そうだよね」
私と恋人だった時、龍之介ももしかしたら葛藤していたのかもしれない。
アイドルでいなくては、という気持ちと。
好きな人がいて、その人を愛してると叫び出したい気持ち。
「だから、俺は誰の敵にもなりたくないし誰の味方にもなれない。でも…もし、天とエリが楽と対立してしまうんだったら、俺は楽の側に付くよ。
ほら、ね?これで2対2だから、TRIGGERは大丈夫だ!」
『だ、大丈夫って…ど、どのへんが?』
「ええっ!?えっと、2対2だから、なんかこう…良い感じに均衡が取れないかな?」
「いやそれは取れねえだろ」
「そうかな!?うーん、同数対同数でバランスが取れるから、永遠にTRIGGERを平和的に続けていけると思ったんだけどな。難しいね…」
「ふ、ふふ…っ。龍は、本当に…。あははっ。ダメだ、ごめん。おかし…っ」
珍しく、ツボに入ってしまったらしい天。そのレアな光景に、私達3人はしばし魅入ってしまうのであった。