第112章 幸せでいて
怒気を自分の力で抑え込むのは至難の技だ。しかし自分よりもさらに怒っている人間を目の当たりにすると、不思議なもので怒りメーターは下降を始める。
「げっほ、ごほ!!て、天!お前…っ、良いパンチ、持ってんじゃねぇか…っ」
「楽!大丈夫か!!」
『天。ありがとうございます。なんか、少し頭が冷えました』
「そう。だったらボクも、拳を痛めたかいがあったよ」
咳き込む楽の背中を、一生懸命さする龍之介。
それから少しして、話し合いを開始する。だが誰も椅子に腰掛けることはせず、私達は全員立ったままで輪になった。
「俺は前から言ってたはずだ。自分に嘘は吐きたくない。偽りたくない。ありのままの姿で、ファンの前に立ちたい」
「だったらアイドルになんて、最初からならなければ良かったんだ。ファンに夢を見せることが出来ないなら、キミにアイドルは向いてない」
「ファンに夢を見せることってのは、嘘で自分を固めることか?違うだろ」
「子供みたいな屁理屈こねないでよ」
「お前がどう言おうと、俺は俺のやり方でこれからもアイドルを続ける。TRIGGERをやっていく。誰が、なんと言おうとだ」
誰がなんと言おうと。それを告げながら楽は、こちらを見た。その “誰が” の中には、私もしっかりと含まれているのだ。
「…はぁ。もう、楽のことが信じられない。好きな人がいることを、わざわざファンに言うなんて」
「俺から言ったんじゃない。訊かれたから答えただけだ」
「次に屁理屈をこねたら、次は鳩尾じゃ済ませないから」
冬でもないのに、テント内は氷点下のように冷え込んだ。