第110章 どんな時もそばで
3人が歌い終わると、プロジェクターは再び白に戻る。それと同時に、八乙女宗助が手元のマイクを取った。
「それではこれにて、八乙女プロ主催の記者会見を終了させていただきます。なお、中崎エリのことで何かございましたら当社までご連絡ください。
…さきほどの歌をお聴きになった皆様が、何を感じ何を想うか。それは我々には分かりません。ですが、胸に響く物が多少なりでもあったこと、期待いたします。
それでは、これで失礼いたします」
社長と、小鳥遊音晴が報道陣に頭を下げる。私もそれに倣い深々と礼をした。
待ってください!まだ質問が!という声を聞き届けることなく、社長は私の背中を押す。ぐいぐいと押され、袖の奥へ。そして控え室の中に押し込まれた。
「はぁ。これでもう…後戻りは出来んな」
『いや、ちょ、あの』
「お疲れ様だったね。八乙女くん。頼り甲斐があって格好良かったよ」
「やかましい…。カメラの前に立つのは慣れてないんだ。少し休ませろ」
『その、皆さん、説明を』
「え?あれくらいで根を上げちゃうの?僕の方はまだまだ喋り足りないぐらいなのに!やっぱり迫り来る年月には抗えないって?八乙女パパ、もう良い歳だもんねえ」
「やかましいわ!!」
わちゃわちゃし始めてしまった社長達。私は、あの!!と声を張った。
するとようやく、3対の瞳がこちらを向く。
『しょ、正直、まだ何が何やら理解が出来ていないんですが…!皆さんが、ご自分の立場を危うくしてまで私のことを助けてくださったということは分かります!!だから、えっと、』
「そういう話は、後からでも出来るから大丈夫だよ。それより早く行ってあげなさい」
『え…』
「あいつらなら、屋上だ」
『……』
「きっとキリンみたいに首を長〜〜くして、君のことを待ってるんじゃないの?」
私は唇をきゅっと噛んでから、3人に頭を下げる。そして、控え室を飛び出した。