第110章 どんな時もそばで
場が再開すると、私はまた1人になった。
ちなみにだが、この並んだ多数の人間の中に私の知った顔はひとつもない。本当は、IDOLiSH7もRe:valeもŹOOĻも、私を心配してこの場に来たいと申し出てくれたのだ。しかし、それらは全て断った。彼らが座っているのを目の当たりにすれば、気が緩んでしまうかもしれないと思ったから。
それから、この作戦を実行する瞬間を、絶対に見られたくなかったから。
『質疑応答を再開する前に、再度 私に時間を少し下さい。皆様に、ご報告したいことがございます』
さぁ。言え。
私は、八乙女プロダクションとの仮契約を放棄すると。
もう金輪際、TRIGGERに楽曲提供することはないと。
芸能界から完全に退き、今後一切 アイドル業に携わることはないと!
『わ、たしは…八乙女プロダクションとの、仮契約を…』
「仮契約を、本契約に切り替える予定をしております」
『……え?』
聞き馴染みのある、低い声。それはすぐ隣から聞こえて来て、私はカメラも忘れてそちらの方へ顔を向ける。
そこには、八乙女宗助がマイクを持って座っていた。彼は、こちらを2秒ほどだけ見る。その一瞥の間に、前を向けと目で語った。
訳も分からないまま、私は顔を前へと戻す。
「本契約を結んだ後、彼女をTRIGGER専属の作曲家として迎え入れます。
彼女が、過去にどんな過ちを犯していたとしても。どんな傷を負っていたとしても、彼女の生み出す楽曲と共にありたい。それが、私とTRIGGERの意向です」
どうして、こんな…
「こちらにその旨の、TRIGGERメンバー3人の声明があります。全て読み上げたいところですが時間の都合上、後日弊社ホームページにて公表させていただきます。
私の他にも、世間の皆様に何かを語りたい人間が居るようですので」
こんなことが、起きているのか。