第110章 どんな時もそばで
こういう記者が居るであろうことは、大いに想定済みであった。感情を揺さぶられることなく、冷静に淡々と処理すれば良い。
『私が再びステージに立つことは、二度とありません』
「そうなんですか?でも、今もこうして普通に話してらっしゃいますよね?歌も普通に歌えるのでは?」
『吃音は、いつ現れるか予想の出来るものではありません。それに声の張りや伸びも、かつてとは比べ物になりません』
「しかし、そういうハンデを背負った歌手というのも世間が好む要因になり得るのではないで」
いつの間にか私の隣に立っていた知らない男性が、記者の言葉を遮る。
「この辺りで一度、休憩を挟ませていただきます。再開は、30分程後を予定しておりますので、皆様 引き続きよろしくお願いいたします」
ガヤガヤと、記者達は雑談や移動を始める。私も急ぎ、袖へと引っ込む。そこには、私よりも憔悴した様子の虎於がいた。しかし言葉を交わすことなく、私は携帯の電源を入れた。
この休憩も、作戦のうちである。この間に、世間の声をリアルタイムでチェックする為だ。
もしもこの段階で、世間がLio寄りならば もう何か策を講じる必要はない。記者会見は大成功だ。
しかし、もしも世間の声が変わらずLioを敵視するものならば…私は、次の作戦に移らなければならない。
祈るような気持ちで、ラビッターを開く。