第110章 どんな時もそばで
「中崎さんの入院先の病院に、彼は何度も足を運んでいるという話を耳にしました。こちらの話は、事実ですか?」
『はい。間違いありません』
「それは、どういった理由からでしょうか」
『それは…』
ここからは、巧妙に真実と隠し事とを混ぜていく。
『私とTRIGGERさんは、一緒に仕事をさせていただいたという経緯があるからに過ぎません』
「!!」
『説明が遅れましたが実は、私も八乙女プロダクションとは仮契約を結んでおります。そしてTRIGGERさんには、何度も楽曲の提供を行ってきました。
もしかするとどなたかは、耳にされたことがあるかもしれませんが…。作曲家 H は、私です』
会場内が、にわかに騒ついた。
私や了、一織の作戦通りに事は進んでいる。
エリが春人として、TRIGGERとずっと傍にいたことを隠す。その代わり、Hだということは公にする。そうすることで、楽が私を見舞っても自然なことのように見せられる。
「…では八乙女楽さんは、あくまで仕事仲間だからという理由で、お見舞いに訪れたと。そういうことでしょうか?」
『仰る通りです。私と彼の間に特別な何かがあるなんていうことは、まかり間違ってもございません』
きっぱりと言い切ると、質問者の彼女は小さく肩を落とし ありがとうございましたと着席した。