第110章 どんな時もそばで
無数の気配が感じられる、袖の向こう側。私はひとつ息を吸ってから、ずっと前にいてくれた虎於を追い越した。一度だけ振り返って、笑って見せる。彼はそんな私を、不安そうに見つめていた。
ステージみたいな壇上に一歩足を踏み出すと、おびただしい数のフラッシュが襲い来る。あまりの光量に、一瞬前が見えなくなって足を止めそうになってしまった。しかし、なんとか自席の前までやって来る。
前を向き、頭を下げる。するとまた、フラッシュの音が部屋中を埋め尽くした。頭を下げ続けながら、これは後何秒くらい頭を下げるものなのだろうか?などと考える。結局、なんとなくフラッシュの数が少なくなったかなというタイミングで頭を上げた。
改めて、目の前の景色を見て卒倒しそうになる。こちらを捉える数多のレンズが全部、私を睨み付ける目のように見えた。
それから椅子に腰掛けるのだが、結局 私の隣に座る者は現れなかった。不自然な空席が3つ。だが、そんなことを気にしている余裕は今の私にはない。
震え出しそうになる声を抑えつけ、とっくに暗記した原稿に目を落とす。
『はじめまして。Lioという名前でアイドル活動を行なっておりました、中崎エリと申します。本日は、ご多忙の中お集まりいただきありがとうございます。また、テレビをご覧に皆様にも併せて、ご挨拶を申し上げます』
などという、当たり障りのない口上から会見はスタートした。記者達は、そんなものはいいから早く質疑応答に入れと言いたげだ。しかし流れ的に、まずはこちらの謝罪を聞いてもらわないといけない。
『私が原因で、世間の皆様をお騒がせいたことを謝罪したく、このような場を設けさせていただきました。そして、過去 私が行った浅はかな行動についても改めて説明、謝罪をさせていただきたいと考えております』
私は淡々と、私がどうしてアイドル活動に終止符を打ったのか。また、スポンサーやお世話になった芸能プロにろくな説明もせず姿を消したことを説明した。