第110章 どんな時もそばで
時間は冷酷にじわりじわりと差し迫り、私は腰を上げる。会場へと向かう前に、携帯の電源を切っておこうとスマホを手に取った。
気付かないうちに、随分とメッセージが溜めてしまっていたようだ。全てをチェックする時間は残されていないので、未読メッセージの送信者だけにざっと目を通す。
その中に、天からのメッセージを見つけた。件名は、TRIGGERよりとなっている。それをタップして、内容を確認する。
《 I'm always here to cheer you up! 》
理解した途端、私の口元は独りでに弧を描いた。
「その様子なら、問題なくいけそうだな」
『うん。ここにきてやっと、腹が決まった』
虎於と共に控え室を出ると、廊下には顔も知らない人間が溢れていた。黒いスーツを着た恰幅が良い男達。耳から伸びたワイヤレスマイクで何かを話している男性。何をチェックしているのか、バインダーを持った女性。
性別も担当もバラバラの彼らだったが、ただひとつ共通していることがあった。それは、表情。この場にいる全員、私がまるでこれから、死刑台に向かう死刑囚を見るような顔をしていたのだった。
その中で、虎於だけが薄く笑った。そして、私の半歩前を行く。彼の背中を追うことだけに意識を集めて、足を進める。
久し振りに身に付けたスカートの裾が、ふわりと揺れた。