第110章 どんな時もそばで
あらかじめ聞いていたし、写真も見せてもらっていたが、予想以上だった。広い空間を贅沢に使い、周りには絢爛豪華な調度品が品良く並べられている。
しかし、気になったことがある。それは、辺りより一段高い場所にある最前方。つまりは、私が座り話をする場所だ。そこには、必要な数以上の椅子とテーブルが用意されていたのだ。長テーブルが2つに、椅子は4つ。私が座っても、あと3席も空く。
『席、多くない?』
「御堂は設営には携わってないからな。全部、了さんの指示だ。記録係でも座るんじゃないか?」
『そっか。まぁ、喋るのは私だけだから、隣に誰がいようと邪魔さえして来なければ問題ないけど』
「俺が座ってても構わないということか」
『それは構う』
今はガランとした寂しい会場。この数多の椅子が、あと2時間もすれば全て埋まる。その光景を想像したら、やはり少しだけ足がすくむ。隣に大きな虎於が居てくれることで、真っ直ぐ歩くことが出来た。
会場を下見した後は、控え室へ向かう。腰を下ろした私の隣に、当たり前のように虎於も腰を落ち着けた。そして、嘲笑気味に呟く。
「まいったな」
『うん?』
「怯える女を励ますなんて、訳ないと思ってた。だが、あんたを前にしたら 何をしてやれば良いか、どんな声を掛けたら良いのか。途端に分からなくなっちまう」
『……』
「何もしてやれない自分が不甲斐ないなんて、今まで感じたことなかったよ」
虎於は後ろ頭を掻いて、ふいと私から視線を外した。そんな彼の方へ、ゆっくりと手を伸ばす。指が微かに頬に触れると、虎於は徐々に2人の距離を詰めた。
ぎゅっと。私は彼の頬をつねった。
「いっ、」
『誰が怯えてるって?』
「い、いはい…」
(痛い)
『怯えてはない。けど…
ずっと隣に居てくれて、ありがとう。虎於は不甲斐なくなんてないよ』