第110章 どんな時もそばで
左に座る虎於に、改めて礼を言う。
『何から何まで、本当にありがとう。なんで私の為に、ここまでしてくれるかなぁ…』
「その理由、今ここで言ってもいいのか?」
『言ってもらわなくても、理由なら分かってるつもり。私の自信過剰じゃないならね』
「過剰なんかじゃないさ。俺の気持ちが正しく伝わってて嬉しい限りだ」
車は高速に入り、車窓から流れる景色がこれまでより一層早くなった。私は遠くを見ながら、小さく息を吐く。
虎於がこんなにも良くしてくれる理由は、彼が私に特別な想いを抱いているから。なのに、私は彼に対して返せるものが何も無い。それがただ、心苦しかった。
沈黙が重くて、私は提案する。
『テレビ点けてもいい?』
「あぁ」
モニターの電源を入れると、映ったのは昼の情報番組。言わずもしれた大物芸能人が、若手達に大きな声で語って聞かせている。
《 アタシもこの業界は長いから、Lioの名前くらいは少なからず聞いたことあるけど、やっぱり謎が多いよね 》
《 つい最近も、有名な歌い手Keiさんの発言が発端で、Lioの正体を求める声が世間で多く上がっていました 》
《 でもそのLioって子は、今まで世話になった人に対して紙切れ一枚残して逃げたんでしょ?うーん。そういうことしちゃう子はねー、どこに行ってもきっと上手くやっていかれへんやろね 》
《 まぁ、それも噂の域を出ない話ですが…。あと噂と言えば、TRIGGERの八乙女楽さんが、ロスでLioの楽曲をカバーしたという話も出て来ていますね!》
《 え!あの八乙女プロダクションの色男やんな?そうかぁ…。これは、TRIGGERとLioはずっと裏で繋がってたんかも分からへんな? 》
《 どうなんでしょうか。しかし、後少しでそれらの謎が解決するかもしれません!なんと某ホテルで噂の渦中にあるアイドルLioが、生放送で記者会見を行うとい 》
ブツっと、モニターの電源が落ちる。虎於が消したのだ。
「男と女のドライブ中に流すBGMにしては、ムードがなさすぎるよな」
私は口角をなるべく上げて、そうかもねと呟いた。