第109章 ……………あ
私は、一織に事のあらましを話して聞かせる。時折、何かをノートに記しつつ最後まで静かに聞いてくれた。それから少しの間、手元のノートに目を落とす。おそらく、物凄い速度で思考を巡らせるいるのだろう。
「事情は大方把握出来ました。これから先、どう動くのか考える前に、もう少し情報が欲しいところですね」
「たとえば?」
「たとえば、この情報が一体誰から漏れたのか。そして、どこまでの情報が相手に漏洩してしまっているのか」
私は、一通の手紙をテーブルの上に載せた。一織と天は、揃って顔をこちらに向けて説明を待つ。
『いま一織くんが言った、2つの疑問。これを読んでもらえば解決出来る』
天が一織の隣へ移動して、2人同時にそれを読み始める。
この手紙は、私がさきほど病院で入手したものだ。勿論その病院とは、私が先日までお世話になっていた病院である。
私宛で、送り主は、私を担当してくれていた看護師。見舞い客を病室まで案内してくれたり、その他 生活をする上で不自由な事を全てサポートしてくれて。本当に、彼女にはお世話になった。
自ずと時間を共有することが多かったので、色々な話をしたのも覚えている。趣味趣向や、身の上話なんかも交わした仲だった。
「……ゲラにあった写真が、病院の物だったので予想はしていましたが…」
「そう…。彼女が」
一織と天は、複雑そうに目を伏せた。そんな2人に、私は決定的な言葉を叩き付ける。
『うん。私のことを講英社に売ったのは、入院中一番お世話になった、この看護師さんだった』