第109章 ……………あ
「クールでドライと通っている九条天が、随分な入れ込みようですね」
「どの立場から物を言っているのかな和泉一織。ボクと彼女のことに口を挟まないで。この人を野放しにしたら最後、どれほど突拍子も無いことをするのかも知らないくせに」
『酷い言われようだなあ』
「あ。なぁなぁ。これってもしかして、自業自得って奴?」
『うん正解』
一織と天は互いに一歩も引かず、鋭い視線を向け合っている。側に立って見守る壮五は、右往左往だ。私と環は、のほほんと飲み物を戴いている。
「あなたがどれほど彼女のことを想っていても、それを言動に表すべきじゃないと言っているんですよ」
「キミには関係ない。部外者は大人しく引っ込んでおいで」
部外者って。引っ込めって。天は、私が一織に助力を乞いに来た立場だということを忘れているのだろうか。
「残念ですが、そういう訳にはいきませんよ。四葉さんの恋人に、横恋慕はやめていただきたい」
「は?」
空気が止まってから、どれくらい経っただろうか。おそらく、1分は経過したと思う。
「和泉一織。きっと働き過ぎだと思うから、少し休んだ方がいい」
「可哀想な物を見る目で私のことを見ないでください!」
話がひと段落したかはさて置いて、私はすっと挙手をする。この大混線の原因に、思い至ったからだ。
『思ったんだけど、一織くん。貴方もしかして、私が誰か気付いておられない?』
「はい?」
「うっそ。いおりん、それマジでウケるわ」
一織は改めて、私の顔をじっと確認した。同時に、天が不憫そうに語りかける。
「ふふ。鈍さ楽並み。キミ、今日ここで誰と会う約束をしていたの?」
「……………あ」
IDOLiSH7ブレーンの、間の抜けた “あ” は、きっとレアでとても貴重なのだろう。