第109章 ……………あ
広いリビングには、2人の珈琲を啜る音だけ。相変わらず壮五は、目も合わせてくれない。何とも言えない気まずい空気が流れ続けていた。
『えっと、他の皆さんは お仕事なん』
「そうなんです!すみません、お相手出来るのが僕1人で本当に申し訳ございません!!」
『いや!そんなの全然、むしろ私が急に押しかけてるわけだし…っていうかずっと思ってたんだけど、壮五くんもっと力抜いて!ほら、私が春人の時は普通に接してくれてたでしょ?そんな感じで、いっちょお願い出来ないかな?』
「無理です」
『無理かーなら仕方ないかー』
早く!誰でもいいから早く帰って来てくれ!私は心の中で叫んだ。
そんな渇望が現実を引き寄せたのか、玄関のドアノブがガチャリと回される。
「うーす。ただい……えっ!?な、なんで!?なんでこんなとこいんの!?」
『あ。おかえりなさい私の救世主、じゃなかった。タマちゃん』
環は鞄を投げ捨てて、跳ねるようにして私の元に駆け寄った。そんな彼の頭を、ふわふわと撫でてやる。そこへ、目的の人物も続いて現れる。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい。一織くん」
ようやく、いつも通りの壮五の声が聞けた。ほっとしたところで、私も一織に声をかける。
『おかえりなさい。急に尋ねて来てしまってごめんね』
「……いえ、どうぞ気になさらず」
一織はそっけなく言うと、じーーーっと私の顔を凝視した。一体、彼はいま何を考えているのだろう。私は座りの悪い心地のまま、その突き刺さるような視線に耐えた。
「………」
(この人は、誰だろう)