第109章 ……………あ
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午後6時半。私は、アイナナ寮のインターホンを押した。すると、数秒も待たないうちにマイクから声が返って来る。
《 ひゃいっ!!》
『あ、え、と…。どうも、こんばん』
《 こここここんばんは!すぐに開けます!!》
『あ、お願いします…』
信じられないくらい声がひっくり返ってはいたが、おそらく壮五の声で間違いないだろう。
それから、玄関扉は彼の言葉通り本当にすぐ開いた。あまりに強い勢いで開けられたものだから、ぶぉん!と強風が巻き起こるほど。
私は風のせいで乱れた髪を整えてから、改めてこんばんはと告げる。現れたのは、やはり壮五であった。彼は何故かだくだくと汗をかいていて、目が上下左右に泳ぎまくっている。
「ど、どうぞ!!あまり広いとは言えない場所ですが上がってください!あっ、スススリッパこちらでよろしければ!後すぐに何かお飲み物をご用意しますので!」
『おおおお、おかまいなく!!』
理由が定かでないが、壮五はそれはもう極度の緊張状態にあるらしかった。こちらにまでその緊張が移ってしまうほど。
リビングに通され、勧められた椅子に腰を下ろす。
『あぁそうだこれ、焼き菓子なんだけど御土産持って来』
「このような大層な物を戴きまして!!一体どのような返礼品をお贈りすればよろしいのか僕には到底想像も付かない次第で恐縮です!!!」
『1個100円とかのマドレーヌを詰め合わせただけの奴なんだけどな!?壮五くんキャラどうしたの!!』
五体投地でも始めそうな勢いの壮五に、私は一刻も早く目を覚まして欲しかった。