第109章 ……………あ
その名前には当然、心当たりがあった。しかし、私より先に声を上げたのは八乙女宗助。
「こいつ…!あの時の、狸親父か!」
『もう、何年も前のことだというのに…。この男は、ずっと私とTRIGGERを恨んでいたのでしょうね』
そう。このスクープを指揮している男は、かつて龍之介を陥れようとした狸親父だ。
【9章165ページ】
まぁ私がこてんぱんにしてやったわけだが。こんな形で積年の恨みを晴らされようとは思ってもみなかった。
「やっぱり一戦交えてたわけだ。そんな君に、ありがたいお言葉を授けようか?
番組製作陣をねじ伏せられる弱味を握ってるなら、プロデューサーと対立するのはありだろうね。他事務所アイドルより自社のアイドルの方が素晴らしいって自信があるなら、他の芸能プロに喧嘩売るのもいい。でも、どんなカードを持っていようが、マスコミとやり合うのだけはオススメしない。何故なら奴らが扱うのは、情報だからだ。そしてその情報に踊らされるのは群衆。さすがに、衆多が巻き起こす勢いの向きを変えるのは僕といえど簡単じゃないからね」
ありとあらゆる業界に精通し、その荒波を乗り越えて来た了が言うと、とんでもない説得力があった。
私と社長が唸っていると、彼はすくっと立ち上がってジャケットの第2ボタンを留めながら言う。
「ま、せいぜい頑張ってねぇ。僕は安全な小島から、君らがあっぷあっぷ溺れそうになってるのを見学させてもらうよ」
明るい声で、じゃあね〜と告げ立ち去ろうとする了。私はそんな彼の、スーツの裾を引いた。そして座ったままの状態で、彼を上目遣いで見つめる。
『助けて。了さん』
「……は?」
『手を貸して欲しい。助けて欲しい』
自分の聞き間違いとでも思っているのか、了は目を丸くして私を見下げた。