第109章 ……………あ
『うーん。困りましたね』
「あれ?意外と冷静でつまらない反応だ。ちゃんと一言一句一字余すところなく読んだ?」
勿論、読んだに決まっている。しかし私には、ほんの少しの心算があった。薄々、近い将来でこんなことが起こってしまうのではと思っていたのだ。
「このゲラは、確かな物なんだろうな」
「ちょっとパパ、なんて失礼な!出版社の人間から直で仕入れた、ガチもガチの出来立てホヤホヤのゲラでーす!どっきりじゃなくて残念だったね!」
「はぁ…全く。どうやってこんなものを」
溜息を吐く社長を前に、了は目を光らせて告げる。
「この業界じゃ、情報は金より重い。当然、ネズミはいたるところに忍ばせてるさ」
「そのネズミとやら、うちにも放ってるんじゃないだろうな」
「あははっ。それはどうかな?ねぇどう思う!?」
「中崎。急ぎ各部署に強力なネズミ捕りを設置しろ」
『御意に』
何も引っかからないことを願って、近々 大々的な罠を仕掛けることにしよう。
「そんなことより今はこっちの方がヤバイんじゃない?ヤバイでしょ。せっかく持って来たコレについてもっと焦ってパニックになる様子見せてよ」
「応えたくない要望だな」
「ちょっと聞くけど君さ、過去に講英社と揉めた?」
何も答えない私に、了は矢継ぎ早に言葉を浴びせ続ける。
「違和感があるんだよね。いくら基本がやりたい放題のMONDAYでも、これは流石に一線を越えてる。なんていうか、読んでるとこっちが胸焼けするレベルの “悪意” が物凄く濃いと思わない?
お前は覚えがあるはずだ。この名前に」
にやり目を細めた了が指を置いたのは、この記事の責任者名が記された箇所だ。