第109章 ……………あ
「あはは、あは…さすがにびっくりだ。なに?君ってそんな簡単に人に助けを求められる奴だった?」
『自分1人で出来ることなんて、限られている。最近ようやく、そんな当たり前のことに気付いたんですよ』
きゅっと、裾を握る手に力を込める。了はそんな私を、冷たくも興味ありげな瞳で見つめていた。
「…お前、さっき僕に “変わった” なんて言葉を吐いたけど。本当に変わったのは、そっちじゃないか」
『良い変化。でしょう?』
「つまらないけどねー。お前にはずっと、馬鹿なままでいて欲しかった。じゃないと、イジメがいがない」
『もう十分いじめたでしょう。今度は手を貸す方に興じてみては?』
「はぁ?ごめんだよ。僕はそんなに暇じゃないんだ。大体、お前を助けたってこっちには何のメリットもない」
了は両手のひらを上に向け、肩をすくめて見せた。なんとかこの男のやる気を引き出そうと、私は頭を捻る。
『どんな命令でもききますよ?』
「え、ほんとに?!じゃあ、助けてってもう1回言ってみて?今度はあんな普通のじゃなくて、ツンデレふうに」
『あんただって、本当は私を助けたいって思ってるんでしょ!だからほら、さっさと手を貸しなさいよ!…手を差し伸べてくれるの、待ってるから』
了は腹を抱えて、最高とケタケタ笑っている。
「じゃあ次!イケメンふうに!」
『俺が誰にでも助けを求めるわけじゃないってこと、お前なら知っているだろう。だから頼む。こんなこと、あんたにしか頼めない』
「ははっ!いいね惚れそう!次は、まだ右も左も分からない5歳児だ!」
『おいたん、私、この後どうなっちゃうの?こわいよ、助けてよ』
「誰がおいたんだ」
おっと。ここは “お兄ちゃん” が正解だったらしい。
私たちのやり取りを、ただじっと見ていた社長がぽつり零す。お前達、随分と仲が良いな と。