第108章 待ってられるかそんなもん
表情を少し引き締めて、春人の顔と声で楽に告げる。
『そういうわけだから、これからも末永くよろしくお願いします』
エリとしてではなく、春人として。私は彼の隣にいよう。
「……末長く、か。ちなみに、あんたがエリとして俺の隣を選ぶ日が来るとしたら、それはいつ頃なんだ?」
『そうですね。20年から30年後くらいでしょうか』
「はは!長過ぎて意味が分からねえな」
『確かに。ですが私は、そんな途方もなく遠いと感じられる日でもいつかは来ると思いますけどね』
「待ってられるかそんなもん」
楽は立ち上がって、窓の外に目を向ける。さきほどまで高い位置にあった太陽が、少しずつ下降を始めていた。
楽と居ると、こんなにも早く時間が経つのだと実感する。
「まぁ、いいよ。どうせエリのことだから、簡単に頷くとは思ってなかったしな」
『ごめんなさい。悪いとは、思っています。こんなふうに命を拾うなら、貴方に気持ちを告げるべきではなかっ』
「今までは、努力すら出来なかったんだ」
楽は、私の言葉尻を奪った。それ以上は聞きたくないと言わんばかりに。そして、窓に向けていた顔をこちらに向け続ける。
「でもこれからは、そうじゃない。これからは、あんたが近くにいる。どんな姿をしてたとしても、エリはエリだ。正直言うと、今はそれだけで幸せなんだよな」
でも…と、楽はさらに言葉を続ける。陽の光を後ろに背負い、にやりと狡猾な笑顔を浮かべて。
「俺は強欲だからな。きっとすぐに、それだけじゃ満足出来なくなる。その時は、全力でお前を奪いにいくぜ」
手で銃を形作って、銃口をこちらに向ける。
「逃げられると思うなよ?俺は絶対に、エリのハートを撃ち抜いてみせる」
あまりに強い既視感に、私は目眩すら覚える。
そうか、私が最近見たあれはただの夢ではなく、正夢だったのか。
その夢で私は、どうしていたっけ。
あぁ、そうだ。私もまた笑顔を浮かべ、それから両手を広げていたのだった。
『受けて立ちますよ。ここを目掛けて、何度だって引き金をひけばいい。貫ける日が来たら、いいですね』