第108章 待ってられるかそんなもん
『いただきます』
食事制限は一切されていないので、見舞客からの差し入れは全て食べられる。そして、この無駄に豪華な病室には電子レンジまで完備されていた。使うことはないかと思っていたが、おかげさまで熱々の中華が頂ける。
『酢豚、美味しい…っ!しっかりとした味付けが最高!』
「はは、褒め過ぎだろ」
『いや本当に美味しいよ!龍の作った酢豚と甲乙付けがた…』
甲乙付けてどうする!!口を滑らせた、なんてもんじゃない。楽の前で、龍之介との同棲生活を思わせる話題を出してしまうなんて。入院生活の間に、頭にカビでも生えてしまったのだろうか…
しかし楽は、こんな浅はかな私に何も言わなかった。きっと、気になっているはずなのに。龍と付き合ってたんだよなって、訊きたいはずなのに。
やっぱり、好きな女にはとことん甘いのだ。この男は。
そして中華を食べ終わった後、ホット烏龍茶を2人で頂く。そんな中、楽は思い出したように声を上げた。
「実は、差し入れまだ他にも持って来てるんだ」
『これ以上まだ何かあるの?』
「あぁ。しばらく俺の家に置いてあったんだけど、これはエリのだからな。ずっとあんたに渡してやりたいと思ってた」
そう言って楽が、大きい方の紙袋から取り出したのはなんと。非常に懐かしい、Wonder Wonder Landのウツボ兄弟ぬいぐるみであった。
【18章 380ページ】
『わっ、わ!!わぁ〜!ありがとう楽!また逢えると思ってなかった!嬉しいっ』
「エリのそんな笑顔が見られて嬉しくはあるけど、やっぱりちょっと妬けるな。ぬいぐるみにやきもち妬く男って、あんたはどう思う?」
少し愛が重過ぎやしませんか。なんて言えなかった。そのはにかんだ笑顔に、心臓がきゅっとなってしまって。
胸に抱いたぬいぐるみに顔を埋めると、少しだけ楽の匂いがした。