第108章 待ってられるかそんなもん
「花屋が開けそうだな」
広い病室を埋め尽くす花を見て笑う楽は、上機嫌だった。口にしなくとも、会えて嬉しいと言っているみたいで。
『凄い量でしょ?ふふ、ありがたいよね。でも皆んな、病室に入ってこの状況見たら気まずそうな顔になるんだ。ごめんね、花なんてありきたりなもの持って来ちゃってって。
花は、いくらあっても嬉しいのに』
「俺も、エリが喜びそうなもの持って来てる」
楽は自信ありげな笑顔を浮かべ、手にしていた小さい方の紙袋をひょいと上げて見せた。
『え?なんだろー。ヒント!』
「食い物」
『もしかして手料理?』
「正解。エリが今、1番食いたいだろうなってヤツ作ってきた。当たってると思うんだよな」
『私が今、1番食べたいものか。うーーん…
トムヤムクン?』
「わるい…!外した」
『あはは!もしトムヤムクン当たってたら怖いって!』
「悔しいな。すっげー考えたのに」
楽のことだから、本当に沢山の時間を使って考えてくれたのだろう。そして、オフの貴重な時間を割いて手料理を持参してくれる。なんて優しいのだろう。というより、好きな人にはとことん尽くす性格である。
『で?何を作ってきてくれたの?』
「中華料理。酢豚と春巻きと、あと炒飯だな」
『中華いいねぇ!好き好き!
もうとにかく病院食に飽きちゃってさ。味の濃い〜やつが食べたかったん』
「エリ」
『うん?』
「今の、もう1回」
『今の?とは』
「好きって、もう1回聴きたい」
相変わらず、聞いているこっちが赤面してしまうほどの台詞を軽々と言ってのける。これが楽クオリティだ。