第108章 待ってられるかそんなもん
そこから数日は、少しの時間も取れなくなった。姉鷺が、些細な隙間時間にも仕事を入れるようになったからだ。これまでのツケが回って来たように、俺はエリに会えなくなった。
病院に時折顔を覗かせた天や龍之介、姉鷺の話では、エリが春人の姿でいることも少なくなかったという。理由なら、訊かなくても分かる。
春人という仮面しか知らない見舞客の相手をする為だろう。これまで関わって来た仕事仲間や同僚達が病室に押し寄せて、きっと今頃 戸惑っているに違いない。
これを機に、自分がいかに周りから愛されているのかせいぜい思い知ればいい。
そして、今日は待ちに待ったオフである。タクシーでなく、自分の車で病院へと向かった。エリが絶対に喜ぶ手土産を持って。
今日は、何時間でもいられる。きっと沢山の話が出来るだろう。しかし、ナースステーションで衝撃的な言葉を聞かされる。
なんと、今日は一日 面会謝絶だと言うではないか。具合が悪いとかではないらしく、誰も通さないで欲しいという本人の希望らしかった。
果たして、俺の間が悪いのか。はたまたエリの突飛過ぎる行動がせいか。とにかく俺達は、そう簡単に2人きりになれない星巡りの元にいるらしい。
立ち尽くす俺に声を掛けたのは、いつも世話になっている看護師であった。
「こちらの伝達不備で、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。じつは、八乙女様が来た場合だけは御案内するように中崎様から申しつかっていたんですよ」
説明を受けながら、もう4度目になる道を行く。いつものようにリーダーにカードをスライドさせてから、看護師は告げる。
「良かったですね」
はいと答えた俺の顔は、さぞかし緩み切っていたことだろう。
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