第108章 待ってられるかそんなもん
「あぁ、ありがとな…実は、見舞いに来るの3回目なんだが椅子に座るのは初めてなんだ」
「マジでどんな見舞い方してきたんだよ!!」
メロンを切る為、包丁を手にした三月は目を剥いた。
『立派なメロンだなぁ』
「はは、だろ!?大和さんが選んだんだぜ?」
「ヤマト、見舞いといえばメロンだろと3回は言っていましたよ。彼のメロンに賭ける情熱は底知れないものがあります」
やがて切り分けられたメロンが皿に載せられて、各人に配られる。瑞々しい果汁がキラキラと光っていた。
『ん、甘い』
「レディ、フルーツに紅茶などを合わせてみては?ワタシの国から取り寄せた茶葉を、今日は持って来ましたよ。いつか交わした約束を、アナタは覚えてくださっているでしょうか」
【84章 2001ページ】
『うん。覚えてるよ。ありがとう、ナギ』
ふわりと微笑むエリは、本当に嬉しそうだった。しかしナギは、彼女よりももっと嬉しそうに笑う。
「I'm HAPPY. 淹れたてではなく恐縮ですが、アナタの好きな銘柄をご用意いたしました」
「こそこそ何か用意してると思ってたら、エリの為にそれ淹れてたのか。さすがナギ、やるじゃんか!」
ナギは琥珀色の液体をポットからマグカップに注ぐ。立ち上がる湯気の匂いを嗅いだエリは、楽しそうに口元を緩めた。
『ほんとだ、アッサムのミルクティ』
「アッサム?へぇ…
でも、紅茶は紅茶だろ?」
「OH…愛しい人の紅茶の好みも知り得ていないなど、なんと嘆かわしい」
「なんだよ。銘柄とかで、そんなに味変わるのか?」
「…八乙女氏。蕎麦と蕎麦がきを同じ物だと言い張る人間を、アナタはどう思いますか」
「そりゃ、なんて違いの分からない奴だって思うよ」
「ワタシも今まさに同じ思いをアナタに抱いています」