第108章 待ってられるかそんなもん
一口サイズにされたメロンにデザートフォークを突き刺して、目の前の2人に問う。
「和泉兄と六弥は、こいつが女だって知ってたのか?」
「いやそれだよ!オレ、さっき知ったばっかりでさ。もうすっげぇびっくりしたわあ。ナギは知ってたんだよな?全然驚いてなかったし」
「OF COURSE. 美の女神に愛された彼女の麗しさ。一目見た瞬間からワタシには分かりましたよ」
『それは嘘だよね』
「やはり、エンジェルに偽りは通用しませんか。SORRY. アナタの言う通り、ワタシが気付いたのは出逢ってしばらく経ってからです」
そうか。ナギは自力で気付いたのか。春人と共有した時間は、比べ物にならないくらい俺の方が多いというのに。
「ごめんな。知らなかったとはいえ、エリのこと結構雑に扱ってよな、オレ」
『え?心当たりがないけど…』
「ほら、男まみれのフットサルの中に放り込んだりさ」
『あぁ!あったねぇ!でも、良い思い出だよ。そもそも私が入れてくれって頼んだんだし』
「それでも、結果的に血で血を洗う試合になっちまっただろ?」
「「血で血を洗う試合!?」」
俺とナギは声を揃える。
『あはは。確かあの時、おでこの皮を失ってキレちゃって。その節は迷惑をお掛けしました』
「いやいや、それこそ良い思い出だよ。
今でも脳裏に焼き付いてる。1人ずつ消えていく相手チームと、復讐の鬼と化したエリの笑顔が」
「ワタシは直ちに、フットサルのルールブックを読み直した方が良いかもしれません」
「それ、読み終わったら俺にも貸してくれ」
どうやら春人は、俺の知らないところでかなり色々とヤンチャをしているらしかった。