第14章 俺は、あんたより すげぇアイドルに ぜってーなってやる!
『ちょっと落ち着きなさいよ…。大体まだタマちゃんは17歳だから結婚は物理的に無理』
「えぇー…俺、えりりんよりも先にアイドルになったのに」
そもそも、あんな子供の頃に交わした約束など とっくに時効だろう。ずっと覚えていて信じているなんて、彼はどれだけ純粋無垢なのだ。
「だいたいさ、俺まだ聞いてねぇんだけど。
なんでえりりんは、アイドルになってないわけ?
もう歌、うたいたくねぇの?」
『っ、』
歌いたくない、 わけがない。
彼になら…。環になら、話しても良いかと私は思った。
昔馴染みで、長年私の事を思い続けてくれていて…。何より彼は、興味本位で人を傷付けるような人間では無い。単なる好奇心から、私に今向き合っているわけでもない。
環になら…私の心の傷に、触れられても良いと思った。
『歌いたく…ないんじゃなくて。私は…歌えない の。
ステージに立つ事は、出来ないんだ』
「——歌え、ない?」
震える声を抑え付けて、私はゆっくりと言葉を紡ぐ。
『私、ね——』
駄目だった。やっぱり、言葉が上手く出てこない。これを人に語るには、まだ私の勇気が足りない。
『ごめんタマちゃん…やっぱり時間貰ってもいいかな。
ちょっとまだ、覚悟を決める時間が足りないみたい』
「…待ってたら、教えてくれんの?」
私がゆっくりと頷くのを見て、環はなんとか納得してくれる。
「ぜってぇだかんな!俺、あんたの事信じて待ってっから!もし嘘ついたら、いくらえりりんでも、ハリセンボン飲ましてやんよ!」
ズビシ!と私を指差して、環は物騒な事を言った。
『あははっ、分かった!分かったから、ふふ。指こっち向けないで!』
嫌がる私を面白がって、環は人差し指で私の頬をぐりぐりしてくる。
なんだかこうして戯れていると、昔に戻ったみたいだった。私は心が ほんわりと温かくなるのを感じていた。