第108章 待ってられるかそんなもん
「さて。そろそろお暇した方が宜しいのではないかと思うのですが」
「あぁ」
「忙しい中せっかく来たんだろう。もう少しゆっくりしても……」
言いながら、胸の中に嫌な予感が立ち込めた。そう。この流れは、昨日と全く一緒なのである。まさかとは思うが…
「あらいやだ。何を仰っているんですか?」
「全くだな。お暇するのは、お前だよ」
やはりか。もはや、お約束の展開である。しかし、今日は簡単に引かないと決めていた。
俺の耳元で話す2人に対し、きっぱりと言い放ってやる。
「悪いが断」
「いいのか?断っても」
「いいに決まってる。仮に断ったら…何があるんだよ」
「これから貴方達は、きっと色んな場所へ出掛けられたり、大切な時間を築いていくのでしょうね。そんな、お2人だけの素敵な思い出全てにもれなく…我々ŹOOĻも参入することになるでしょう」
「怖過ぎる!!」
俺があまりに大きな声で言ったものだから、ベットの上のエリがびくりと身体を震わせた。
「おっと。あまり大きな声を出さない方がいい。判断を誤るなよ、八乙女楽」
「完全に台詞が悪者のそれだな…」
「あまり、ŹOOĻの執念を見誤らない方がよろしいかと。持てる時間全てを使っても、貴方達が惹き合うのを邪魔してみせますから」
「お前らさては暇なのか…」
虎於は、やがて笑顔を消してぽつりぽつりと言葉を零す。
「たとえ俺達が本気で横槍を入れたところで、お前は…奪っていくんだろう。俺達の大切なものを。だったら、今くらいはいいじゃねえか」
「御堂…」
俺は、巳波の方も確認する。笑っているのに、その瞳は哀愁を漂わせていた。
「もしもの話なんてしても、仕方がないと分かっています。ですが、もしも私達が貴方達よりも早く彼女に出逢っていたなら…
何か、今と変わっていたことがあるのでしょうかね」
俺はまたしても、何も答えを返すことが出来なかった。ただ、黙って病室を後にした。