第108章 待ってられるかそんなもん
虎於と巳波の言動は、俺に対する嫌がらせだとしか思えない。俺がこの病室に入るタイミングを見計らっていたのではないかとさえ勘ぐってしまう。
どうしても目付きが鋭くなってしまう俺。対する2人は、にやにやと口端を釣り上げている。そんな雰囲気を和ませようと、気を使ってエリは口を開く。
『そ、そうだ!了さんは、顔出してくれないのかな?こんな良い病室を用意してくれたんだからお礼言わなくちゃ』
「は!?ここを…了が?」
『うん。そう聞いてる』
まさかだった。俺は、勝手に思い込んでいたのだ。ナースステーションに出向き支払いを済ませたのは、親父であると。
なるほど。これで合点がいった。昨日の看護師の、苦笑いの意味が。
「なんだ。エリは知らないのか。了さん、あんたが運び込まれた初日に見舞いに来たらしいぞ」
『えっ?!』
「貴女の意識がないのを良いことに悪戯しようとするのを、狗丸さんが必死で止めたらしいですよ」
『そっか…来て、くれてたんだ』
「あの人は、捻くれてるからな。それなりに心配してても、照れ臭くて顔出せないんだろ。
まぁ、あんたならそれくらい分かってるよな」
彼女は笑って、小さく頷いた。その表情が、俺は知らないエリの笑顔だったから。何故だか少し、気分が落ち込んだ。