第108章 待ってられるかそんなもん
病室に案内してくれるのは、昨日と同じ看護師だ。そして昨日と同じ笑顔を浮かべ、どうぞと言ってからナースステーションに戻って行った。
今日こそは、時間いっぱい彼女を独占させてもらう。許された時間は今日も決して長くはないが、一刻も早くもう一度確かめたい。
エリの気持ちが、もう一度聞きたい。そして俺も、再度彼女に伝えたい。
ただ “ 好きだ ” と。
「好きだ」
扉を開けた俺の視界に飛び込んで来たのは、愛の言葉を囁く虎於であった。
俺が昨日したみたいに、エリの頬に指を添え、そう告げていたのだった。
「あら、八乙女さん。どうもご無沙汰してます」
巳波はいつもと同じ、嫌味なほど余裕ある表情。俺はなんとか、あぁ どうも。とだけ返した。そんなことよりも、虎於とエリの方が気になって仕方がない。しかしここで怒りを露わにしたり、あからさまな態度を取るのは大人気ないと思う。もっと余裕を見せなくては。なにせ俺は、エリと気持ちを確かめ合った男なのだから。
「すぐにエリから離れろ。この瞬間にも手が出そうだ」
(久しぶりだな。お前らも見舞いに来てくれたのか)
「驚くくらい余裕がないじゃないか、八乙女」
しまった。実際の声と、心の声が全くの逆になってしまった。
「こんな場所で、サラっと告白してるのを見せられて気が動転したんだよ!悪いか!」
「誤解です。彼は告白をしていたわけじゃないんですよ?
2人がどんな流れで今の会話に至ったのか再現しますので、そちらをご覧ください」
巳波がエリと虎於に、さぁどうぞと告げる。すると2人は顔を見合わせた後、さきほど行ったであろう会話の再現を始める。
「顔の傷は綺麗に治るのか?嫁入り前だってのに。良かったら、いい整形外科を紹介してやる」
『気持ちだけで。顔に少し傷があるからって、そんな理由で人の是非を判断する男はこっちから願い下げだしね』
「ははっ。そりゃいいな。確かに、入れ物に多少の傷があったとしてお前の価値は変わらない。あんたの顔や身体がどれほど傷付こうとも、俺はエリのことが
好きだ」
再現は終了した。
「……で?どの辺りが誤解なんだ?俺にはガッツリ告白に見えたんだが」
「ふふ、誤解じゃありませんでしたね。しっかりと告白でした」