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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第108章 待ってられるかそんなもん




『ごめんね、こんな格好のままで。あっ、でもべつに起き上がれないってほどの怪我じゃないんだけど!』

「そうだったのか。とりあえず良かっ」

「頚椎捻挫に打撲、肋骨2本骨折1本亀裂、右肩脱臼、頭部外傷と…あと、何だっけ?」

「んー。えと、鎖骨にもヒビが入ってるってお医者さん言ってなかった?」

「それだ」

『百!千!お願いちょっと静かにしてて!』

「…怒られちゃった。シュン」

「怒られちゃいましたな。ヨシヨシ」


何が、わりと平気だ。微塵も平気なんかじゃないくせに。俺に嘘を吐こうとしたエリに、抗議の視線を送る。


『あー、いや、ほら!もうこれ以上、心配をかけたくなかったっていうか、なんというか…。その、ごめんなさい』


悪戯がバレてしまった子供のように、エリは身を小さくした。そんな反省してますみたいな顔をしたって、許してやらないと思ったのだが、可愛い!!許すとか許さないとか、もうどうでもよくなるくらい可愛い!なんだこれは。久しぶりに見るからか?いや、春人とはずっと一緒に居たのだから久しぶりではないわけだが、とにかく顔が表情が、もう全部可愛いのだ!

可愛いという単語しか頭に浮かばない俺は、きっともうどうかしてしまっているのだろう。


「……じゃあ、そろそろ帰ろっか」

「え、そんなに気を遣ってもらわなくても俺はべつに」

「ははは。何を言ってるのかな?」


俺の肩に肘を置き、千は笑顔を消して囁いた。


「帰るのは君だよ?楽くん」

「……え」


彼は本気だった。その冷たい声に、俺は背筋が寒くなる。そして、俺だけに聞こえる声で千は続ける。


「もうすぐ、君のものになるんだろう。だったらこの場くらい、僕らに譲ってくれたっていいじゃないか」


その悲痛な声を聞けば、きっと誰だって分かるだろう。この人の、気持ち。
何も言えない俺は、ゆっくりと百の方に顔を向けた。すると彼も千と同じく、エリには聞こえない声量で言葉を紡ぐ。


「…ごめんね。オレも、まだ誰のものでもないエリちゃんと話しがしたいな。後少し、だけでいいからさ」


こんな悲しい笑顔を向けられて、誰がノーと言えるだろうか。

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