第108章 待ってられるかそんなもん
“ 私はもう、楽の前から絶対に居なくならないよ。次に会ったら2人きりで、これからの私達について、たくさん話をしようね ”
俺は、昨日彼女に貰った言葉で現実を逃避した。(自分の中で若干着色している感は否めないが)
病院内でもぎりぎりで許容される程度の早足で、受付へと向かう。カウンターの奥にいる看護師に部屋番号を教えてもらおうとするが、エリと春人。どちらの名前を口にするのが自然だろうか。
「中崎エリか、中崎春人に会いたいんだが」
言ってはみたものの、何とも奇妙な日本語である。
しかし看護師はにこっと笑って、ご案内しますと立ち上がった。
俺の前を歩く看護師は、脚を進めながら説明する。
「中崎様の病室は、特別病棟の中にございます」
「特別…病棟って、あいつ、そんなに悪いんですか!?」
「あ、いえ!そういうわけではなく、ただのグレードの問題でして…」
「グレードって?」
「一般病棟の個室よりもさらに上の、最もハイグレードなお部屋なんですよ」
そんな高価な部屋、あいつが自分から希望したとは考えられない。一体どういう経緯で、そんな病室に入ることになったのだろうか。
「中崎様が運び込まれてから数時間後に、スーツをお召しになった素敵な男性がお見えになったんです。そして、自分は彼女の関係者だからこれで1番良い部屋を用意するようにと、費用を置いていかれたんですよ」
「…へぇ。なんだよ、親父も意外といいとこあるじゃねえか」
命を張って仕事をした部下の為に、そんな気概を見せるくらいの男気はあるらしい。
しかし看護師は、俺の言葉を聞いて苦笑いを浮かべていた。