第107章 引き金をひいたのは
「ぅわ…、キ、キスしてる」
「ぐっ……これ、思ったよりもキッツ…!」
「トウマ?」
「な、何でもない」
私から離れた楽は、2人の元へ向かう。そんな楽に、トウマは問う。
「行くのか?」
「あぁ」
楽は歩みを止めないまま早足で進み、入り口辺りでトウマの方に向き直った。
「狗丸。俺の代わりに、エリの側にいてやって欲しい。俺にとって世界で1番大事で、本気で惚れてる女なんだ。だから、頼む」
「!!」
「亥清は、俺と一緒にレインボーアリーナまで来てくれ」
「な、なんでオレがっ!」
「もし途中で俺の気が変わってエリの所に向かいそうになったら、殴ってでも止めてくれ」
「えぇ!?い、いや、オレ人とか殴ったことな」
「あともしかしたら走行中のタクシーから飛び降りる可能性もあるから、それも考慮しといてくれ」
「そんな可能性考慮したくないんだけど!?ま、まぁ頑張ってみるけどさ…」
トウマは、楽と悠の背中を1人見送っていた。
「…あそこで俺も惚れてるんだって言えない時点で、俺はもう負けてんだよなぁ多分…」
『トウ、マ?』
「あぁ、悪い。なんでもない。
ただ、ちょっと羨ましくてさ。だってお前ら、同じもん見てんだもん。いいよな…お前と八乙女には、同じ景色が見えてんだろうな」
『そうなの、かな…。そうだと、いいなあ』
それから間も無く、おびただしい数のパトカーと救急車が現れる。トウマが、私のところに救急隊員を誘導してくれた。
私よりも、そこにいる男の方が重傷だからと順番を譲る。すると男は、数人の警察官に支えられながら救急車の中に消えた。
彼は、決して越えてはいけない一線を越えてしまったのだ。しかし、その報いは受けたと思う。私は因果応報というものをあまり信じていないたちだが、天は行き過ぎた悪を見逃さなかった。
この世にもしも神様がいて、私と楽を守ってくれたというのなら、信者になってみても良いかもしれない。