第107章 引き金をひいたのは
「でも今度からは、俺を庇って戦うなんて危険な真似はしてくれるな。俺がどうなってようと、頼むから逃げ出してくれ」
『そんなこと出来ないな。だってそんなの、楽が恋をした女じゃなくなっちゃう』
「お前なあ…」
楽は、がっくりと頭と両肩を落とした。
こうして笑って会話をしている間にも、私の身体中は悲鳴を上げ続けている。痛みがどんどん強くなってきているのだ。悠が言うように死にはしないだろうが、割と危険な状態なのではないだろうか。
しかし私には、いま笑顔を絶やしてはいけない理由があった。理由は簡単。
楽を、ここから一刻も早く送り出す為だ。
『楽、ほら。ゆっくりしてる時間、ないよ?』
「…あんたは、酷い女だな。俺に、お前を置いていけって言うのか?」
『うん』
「俺の為に命を懸けて、ボロボロになるまで戦った女を置いて?」
『そう』
「そうか。まぁ、あんたならそう言うだろうとは思ってたよ。それに ここで行かなきゃ、お前が惚れた男じゃねえよな」
『ふふ、そうだね』
貴方は、私のものじゃないから。
皆んなの、TRIGGERの八乙女楽だから。
『皆んなが待ってる。
“ 引き金をひいたのは ” あれは、楽達にしか演じられない。他の誰かじゃ、駄目なんだ。
近くで観ることは、出来ないけど…。成功を、誰よりも強く願ってる』
「…あぁ」
楽は、切なげに眉根を寄せた。それから私の顔の横に手をついて、距離を詰める。次第に近くなる楽。私はそっと瞼を下ろす。
優しく、唇が落とされた。
まるで、初めて交わす口付けのようだ。甘くて、痛くて、切なくて、悲しい。
「…エリ。また俺の前から消えたりしないよな」
『うん、居なくならない。次に会ったら、これまでのこと。これからのこと。たくさん、話をしよう』