第107章 引き金をひいたのは
あぁ。
もう病院には着いたのだろうか。
どうしてだろう。さきほどまで、身体中を針で刺されているみたいに痛かったのに。
今はただ、眠い。眠くて、むしろ心地良い。浴槽にたっぷりとぬるま湯を張って、その中にどっぷりと体を沈めているよう。眠気に抗っていないと、すぐに夢の底へ落ちてしまいそうだ。
「大 …夫なん すか!?さっきまで、あん —— 痛がって 」
トウマの声だ。私に着いていてくれてるのか。申し訳ないな。それに、とても心配そうな声。
でも、駄目だ。大丈夫だよって、言いたいのに。声が出ない。
「今は笑気麻酔で落ち着 …… ですが、大怪我には変わりないので、—— に精密検査を」
医者の声は、落ち着いている。だから多分、私は死にはしないのだと思う。なんとか命を拾ったらしい。あぁ、良かった。
うん、私は大丈夫だ。きっと貴方達も大丈夫なのだろう。私が居なくても、完璧な舞台を披露していると思う。今頃は、クライマックスだろうか。それとも、まだ序盤?いやもしかしたらもう、観客からの拍手喝采に包まれている頃合いかもしれない。
時間の感覚があまりに薄くて、もう、全く分からないな。
ここはきっと、夢の淵。
靄(もや)の向こうに、誰かが立っている。
誰かと思えば、あれは…八乙女楽だ。
楽が、私に銃口を向けている。
どうしてこんな場面を思い浮かべているのだろう。
楽、貴方が撃たなければいけないのは私ではなくて、天か龍之介のはずでしょう?
あぁ違うな。これは劇の中じゃない。私の、夢なのだ。だからか、全く恐怖心など感じない。
楽は不敵な笑みを浮かべていたし、私も笑顔で両手を広げている。
まるで、2人じゃれ合うようなごっこ遊び。
彼がほんの少し指先に力を込めると、引き金はひかれる。
そして弾丸は、私の胸を撃ち抜いた。
これは、今、私が見ている夢の中の出来事なのに。
どうしてだろう。産まれるよりももっと前から、貴方にここを撃ち抜かれていたような気がするよ。
ねぇ? 楽 。