第107章 引き金をひいたのは
その後すぐ、トウマが警察と救急車を呼んでくれた。悠は、大粒の涙をぽろぽろと私に零しながら、ゆさゆさと体を揺する。
「ぅうっ、なあ 春人!お前、死なないだろ?なぁ!」
『死なないって…それ以上、悠が揺さぶらなかったら…。そんなことより、悠…お願い』
私は、悠に楽の手錠を外すように頼んだ。鍵のありかを知った彼は一瞬だけ顔を凍りつかせたが、すぐに気合を入れ立ち上がってくれた。
「いひゃ…っ、いひひひ」
「ひーーっ」
涙目になりながらも、悠は男のポケットを探る。やがてしっかりと戦利品を持って、楽の元へ向かった。ガチャンと鍵の外れる音を聞いた私は、安堵し思わず目を閉じた。
「春人!死んだのか!!っ、嘘だろ!おいっ、なあ!」
『生きてる生きてる』
私は少しだけ体を起こして、悠の頭を撫でてやる。その拍子に、血が混ざった唾が気管に入り激しく咳き込んでしまう。口元を、薄い血が一筋伝い落ちた。
「え…っ、血、吐い…」
ふぅ、と後ろに倒れそうになる悠を、トウマが受け止める。
「ハル。エリは多分、大丈夫だ。だから、俺達はちょっと離れてようぜ」
「は?なんで!」
「なんでって…なぁ?」
トウマは、私の隣に膝を突いた楽を見て言った。悠は不服そうな表情を浮かべるも、すぐに立ち上がって壁に向かって歩いていく。
『ごめん』
私は、こちらを覗き込む楽に告げた。
「それは、何に対しての謝罪なんだ?」
アイドルである彼の顔に、傷を作らせてしまったこと。手錠に締め付けられて、鬱血した両手首。女に守られたなどという屈辱をプレゼントしてしまった事実など。謝るなら、それら全部だ。
でも、それ以上に…
『正体、ずっと隠してた。ごめんなさい』
「いや。もういい。こうやって、また逢えたんだからな」