第107章 引き金をひいたのは
楽が、私の名前をまた呼んだ。あぁ。本当に大きな声だなと、ぼんやりと思い浮かべた。そんなことより、まずい。体が動かない。さらに、今まで忘れていた痛みが急激に襲って来た。もうすぐ助かるという安堵感からだろうか。
「な、んだ…これ…」
「っ、春人!!」
夢でも見ているのだろうか。滲む視界に映ったのは、警察でも救急隊員でもなく、トウマと悠であった。トウマは呆然と、血溜まりにうずくまる男を見つめる。悠は、倒れた私に駆け寄り体を起こそうとする。
「春人!!あ、あれ?よく見たらエリ…?でもスーツだし…っていうか、ボロボロじゃんか!!血とかもヤバイし、え?し、死ぬの?いっ いやだ春人!死ぬなよ!」
『落ち、着いて…悠。大丈夫だから…』
楽もまた、意図していなかった2人の登場に戸惑っている。
「お前ら、なんでここに」
そう問いかけられたトウマだったが、何も答えないままふらふらと楽の前を通り過ぎる。そして私と悠も通り過ぎて、立ち止まったのは大怪我を負った男の前。
指を失った右手を押さえ、うずくまる男をトウマは青い顔で見下げていた。
「どうして…。どうして、お前がこんなところにいるんだ!何やってんだよ!!」
「ト、トウマさ…っ、俺は…、うぅ、あなたのために」
「や、めろ」
「TRIGGERが失墜すれば、あなたが活躍するのに邪魔者はいなくなる…」
「なん、だよ…それ!なんだよそれ!
馬鹿野郎が…っ、俺がそんなことされて、喜ぶとお前は本気で思ったのか!!」
トウマはついに、男から顔を背けそう叫んだ。
「狗丸の…知り合いなのか?」
「……NO_MAD時代から、俺のこと、ずっと応援してくれて…ファンでいてくれてた、奴で」
トウマは声を詰まらせながら、なんとか説明した。楽は目を伏せ、そうかとだけ呟いた。
『素敵なファンがいて、羨ましい限りで』
「…ひ、ひひ……そう、俺は、ずっと…トウマさんだけを応援して……いひひひ」
どうやら、大怪我やトウマの登場でキャパオーバーしたらしい。男は涙を流しながら、壊れたピエロの人形みたいに笑顔した。