第107章 引き金をひいたのは
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鼓膜が破れるのではないかと思うほどの爆音。しかし、なかなか体を貫く痛みはやってこない。時代劇などで、体を斬られたにも関わらずそれに気付くには時間差がある。それと同じ現象が起きているのだろうか。
楽の盾になろうと、しがみ付いていた体を恐る恐る離す。そうして振り向いた私が見たもの、それは…
今まさに、手から落下してゆく拳銃。それに少し遅れて、膝から崩れ落ちる男。そして、地面に転がる人差し指。見る見る内に、鮮血に染まっていく右手。
それら全てを追いかけるように、男の断末魔が倉庫内を埋め尽くした。
「なにが、起こったんだ?銃が、暴発…したのか?」
おそらくは、そういうことなのだろう。
男が所持していたのは警察等が使っている正規の拳銃ではなく、どこか得体の知れない暴力団の所にあった物。しっかりと整備されていない銃が暴発する確率は、そう低いものではない。
だが、正常に発射される確率の方が断然高いことは確かだ。事実、1発目の弾丸は問題なく標的を捉えている。運が良かったと開き直るには、まだ心に余裕が足りてない。
私は体を引きずるようにして、血溜まりを作る男に近付いた。すると楽が、身を乗り出して叫ぶ。未だ囚われている両手。鉄と鉄がぶつかって、ガチャガチャと大きな音を立てた。
「エリ!危ないからそいつに近付くな!」
『早く、楽を…助けないと』
楽の手錠の鍵は、きっとこいつが持っている。確証はなかったが、不思議と直感が働いた。
あと数歩で、男の元に辿り着く。しかし、そこで私の視界はぐるりと反転した。気が付いたら天井を見上げていて、冷たいコンクリートの上に横たわっていた。