第107章 引き金をひいたのは
天はさきほどと同様、綺麗な笑顔を浮かべた。そう。苦心を抱えているなど、微塵も感じさせない笑顔で2人を迎え入れた。
「忙しいだろうに、観に来てくれたんだ。ありがとう」
「ふん。まぁな。お前が舞台でどんな演技すんのか、このオレが観ててやるよ」
「いや実はチケット取るの結構大変で。2枚しか取れなくて、誰が行くかってジャンケンになったんだけどハルが負けちまってさ!どうしても行きたいって泣くもんだから勝ったはずのトラが譲っ」
「泣いてはないから!!」
現役男子高校生の可愛らしい話が聞けて嬉しいのだが、正直いまはゆっくり話し込んでいる時間はない。
「ごめんね!チケット送れば良かった。次からは、人数分プレゼントさせてもらうから」
「あ、なんか気を遣わせちゃってすんません。でも、めっちゃ嬉しい。お言葉に甘えてもいいですかね」
「もちろん!」
どうやったら、違和感なく2人に楽屋を出てもらえるだろうか。いくつか言葉を思い浮かべていると、天が切り出す。
「せっかく挨拶にまで来てくれたのに悪いんだけど、もう開演まであまり時間がないから気持ち作らないと。
ごめんね。でも、ここまで足を運んでくれて嬉しかったよ」
「そ、そうだよな、わるい…」
トウマは、バツが悪そうに頭をかいた。その隣に立っていた悠が、天に向けて人差し指を突き立てた。これにはさすがの天も、顔から笑みが消える。
「何のつもり。亥清悠」
「何のつもりか、だって?それを聞きたいのはこっちだ。九条天」