第107章 引き金をひいたのは
「つまり、このメッセージを送ったのはエリじゃない。第三者ではないかとボク達は考えます」
「さっきから電話をかけているんですが、どうやら電源が切られているらしいんです。それも鑑みると、その可能性は大いにあるかと私も思います」
姉鷺は珍しく、眉間に深い皺を刻んで告げた。場は、また重い空気に包まれる。そんな中、俺は提案する。
「今すぐ警察の力を借りるべきだ。電話して、現場に向かってもらいましょう」
「待って。でも、本当に問題が解決した可能性もない訳じゃないでしょ。手違いで警察を呼んで世間を騒がせてしまった場合、この舞台自体にも傷が付く」
「でも…!」
「じゃあ、アタシが現場まで直接行って確かめて来るわ。って言いたいところだけど、アタシがいま現場を抜けるのは建設的じゃないわよね。本当に、どう判断したものかしら…」
話し合いは平行線の一途を辿る。やがて鷹匡と脚本家は、公演直前インタビューの生収録の為に席を外した。
この時間までには楽に戻っていて欲しかったが、ついにタイムリミットであった。しかし俺達は結局、公演中止の発表はしないと決めた。ギリギリまで、楽達を待つと決めたのだ。
それから姉鷺がスタッフに呼ばれ楽屋を出て行くと、天と俺の2人きりになる。俺はもう1度、警察の手を借りようと口にしようとしたその時だった。ふいに、ドアの向こうから賑やかな声が聞こえてくる。
「なぁハル。やっぱやめようぜ、もう公演まで1時間しかないんだぞ。挨拶なら後からすればいいだろ?」
「ここまで来てなに言ってんの。ほんの少しだったら大丈夫だろってトウマも言ってたじゃん」
「でももしかしたら迷惑に」
「お邪魔しまーす」
現れたのは、トウマと悠だ。その明るい声を聞いただけで、何故だか俺は涙が出そうになった。