第107章 引き金をひいたのは
「お前は、ŹOOĻのことが好きなんだな。俺達がいたら、あいつらの活躍を見る機会が減って悲しい気持ちになる。これであってるか?」
楽は、冷静で堂々とした声で男に声を掛ける。男は、真剣な顔でゆっくりと頷いた。
「なら、もうこんなことはやめろ。少し考えれば分かるはずだ。お前が好きな奴は、お前がこんなことをして喜ぶか?」
向けられた銃口が、ピクリと反応する。
「…うるせぇな!!助かりたくて必死かよ!あぁ!?」
「もう一度、よく考えろ。
いま指をかけてるそれは、お前にとって本当に正しい引き金か?」
男の口元が、ひくりと動いた。やがて、狂気に満ちた笑い声が辺りに満ちる。
「ぎゃははははっ!黙れよ!うるせぇよ!説教かよこの俺に!俺はなぁ、感謝されたくてやってるわけじゃねぇ!誰に頼まれてもねぇ!ただ俺が!やりたくてやってるだけなんだよ!見返りなんていらねぇ!誰に何を思われても関係ねぇ!だから残念でしたぁ!お前は助かりませーーん!お前を助けようと邪魔した女も道連れだ!あっははははっ!!」
「……っ、馬鹿、やろう…!」
今の楽の言葉が届かないのなら、もう何を言っても無駄だろう。この運命からは、逃れられない。
私は男に背を向けて、今度は楽と向き合った。
「エリ?」
“ 謎の悪者に私と楽が銃口を突きつけられて もうまさに今2人の命が散らんとするような状況になれば、するかもしれません ”
私から楽に告白をしないのかと訊く天に、こう答えたことはまだ記憶に新しい。
絶対にありえないと思って口にしたこのシチュエーション。その絶対は、意図も簡単に覆された。こんなのは、もう認めざるを得ないだろう。
これから紡ぐ言葉は、楽に贈ることが予め運命で定まっていたのだ。
「…エリ?どうし」
『死ぬ前に、後悔の種になりそうなものは取り除いておこうと思って』
「は?死ぬ、って…なんだよ、そ」
『し。お願い、聞いて。
これは私が貴方に贈る最初で最後の、愛の言葉。
楽。私は貴方を、愛してる』
それは、胸の鼓動に蹴飛ばされて出た愛の言葉。
それから。計ったようなタイミングで、男は引き金をひいた。