第107章 引き金をひいたのは
「ぎゃぁあぁあああ!!ち、っ、血が!うぁああぁ!!」
「大袈裟な奴だなぁ。ちょっと足に当たっただけじゃねぇか?」
撃ったのは、主犯格の男。撃たれたのは、私の手錠を外した男だ。私も楽も、目の前で起こった衝撃的な出来事を受け微動だに出来ない。
「う…撃っ、た?」
「撃ち、撃ちやがった!銃だ!本物の!」
「ここまでやるとか聞いてねぇよ!」
「ぬ、抜ける!俺はもう抜けるからな!!」
蜘蛛の子を散らしたように、とはまさにこのこと。ワラワラと男達は1人残らず倉庫を後にした。撃たれた男も、脚を引きずるようにして泣きながら退散する。しかし残念ながら、撃った人間はそいつらを追うことはしてくれなかった。
私は無意識的に、楽を背に庇うように移動する。
「エリ。引き際だ。そこをどけ」
この至近距離では、弾を避けることなどほぼ不可能。あぁ、まさか本当にチェーホフの銃とやらの伏線を回収するとは思ってもみなかった。
「お前だけなら、逃げられるかもしれないだろ。頼む。俺のことはいいから、早くここを離れてくれ」
もしかするとこれは九条鷹匡の呪いなのでは?なんて思うのは、さすがに彼に失礼だろうか。
「お前を犠牲にして生き残れとでも言うつもりか?そんなのはな、死んだ方がましだ」
あの大して大きくない銃のサイズ。おそらく威力的に、私に被弾さえすれば楽に届くことはないだろう。貫通せずに、私の体内に留まるはずだから。さきほど確実に発砲撃したはずなのに、弾も銃痕もどこにも見当たらないのが、何よりの証拠だ。弾丸は今もまだ、男の脚の中に留まり続けているに違いない。
何も答えない私に、楽はぐっと息を飲んだ。そんな様子を見ていた男は、銃口をこちらに向けたまま口を開く。
「ひゃははっ!惨めなもんだなぁ?どんな気分だ?女の後ろで、じっとしてることしか出来ない自分はよお!」