第107章 引き金をひいたのは
相変わらず聞くに耐えないような罵詈雑言を吐き続ける男。激昂した彼が向かったのは、私の前ではなかった。
「テメェ!!なに勝手なことやってんだ、あぁ!?殺してやる!殺してやるぞテメェ!!」
「ひっ、ご、ごめんなさっ!ぐ、ぁあ!」
私を解き放ってくれた男は、馬乗りされた状態のまま顔で拳を受け続けていた。だが当然ながら、彼を救ってやる義理はない。彼らが内輪揉めしている内に、私は楽の前に移動する。しかし言葉を交わすことなく、すぐに背を向ける。
「……や、めろ」
ところどころ破れたスーツ。砂埃に汚れた全身。血に濡れる乱れ髪。
「もう、やめてくれ…っ」
そんなボロボロになった私の背中を見て、楽はどんな気持ちなのだろう。
「俺の前に…立つな、エリ」
やはり、そう思うだろう。しかしそれは聞けない相談だ。
『ごめん、楽。文句も恨み言も、後で全部ちゃんと聞くから。だからもう少しだけ、そこで静かにしてて。
大丈夫。絶対に助ける』
背中でそう言ってから、私を取り囲む男達に向け臨戦態勢の構えを取る。楽は何も言わなかったが、悔し気に息を呑む気配だけを感じた。
ジリジリと距離を詰めてくる輩達。さぁ、どこから来る。視線を左右に動かした、そんな時だった。
倉庫内に、聞いたことがないような異音が響き渡る。それは、爆発音のようであり破裂音のようでもあった。これまで生きてきた中で、一度だって耳にしたことのない爆音。全身の毛穴が開き、生命が脅かされているのだと瞬時に理解出来るその音。
それが銃声であると気付くのには、永遠とも思えるような長い時間が要された。