第106章 ねぇよ
「…じゃあ、お前らは…ツクモプロの差し金じゃねえのか?」
「了だのツクモだの知らねえって言ってんだろ!」
私には楽のように言葉を発する余裕はなく、ただ頭が真っ白になっていた。
了が関係ないというなら、いま私達を襲うこいつは一体何者なのか。他に黒幕がいるのか?それともこいつらの単独的犯行か。
それを問い質そうとするも、私の口から出て来た言葉はまるで違うものだった。
『もしかして、天を…車で轢こうとしたのも…』
「あぁ、あったなぁ。そんなことも」
唖然とする私と楽に、男は苛立ちながら語る。思い切り轢こうとしたにも関わらず、天が見事に受け身を取ったから致命傷を与えられなかったこと。再びTRIGGERのセンターである天を狙おうとするも、警備が厳しくなり未遂に終わったこと。
本当なら腹わたが煮えくり返っているはずであるが、私の頭はいま別事でフル回転だ。交渉材料が全くない今、どうやれば楽をレインボーアリーナへ向かわせることが出来るか。
楽も同じことを考えているのだろうか。声を荒げることも暴れることもなく、ただじっと押し黙っていた。
「じゃあまぁ、こうやってダラダラやってても意味ねぇから。さっさと目的を果たすとしますかねぇ」
『っ!!』
男が再び、楽の前へと歩みを進める。どうしたらいい。私は、守ることができないのか。TRIGGERの八乙女楽も。この世で最も愛している男のことも。
懸命に思慮を巡らせる私に近寄って来た輩達が言う。
「てか、あんたはアイドルじゃねぇのか?こんな綺麗な顔してんのに」
「でもいくら綺麗なツラでも、男だろ?」
「惜しいよなぁ。女だったら、せいぜい楽しませてもらったのに」
あぁ、これだ。まだあった。私だから出来ること。