第106章 ねぇよ
『……分かった。黙れと言われれば黙るし、もう暴力も振るわず大人しくしてる。だから、楽からそれを離』
「てかマジで声の1つも出さねぇのな。おら、助けてーって言ってみろよ!じゃねぇと本気でその顔切り刻むぞ?商売道具なんだろうが!」
男は、ナイフをぺちぺちと楽の顔に叩き付ける。楽は目を強く瞑って、口を噤んでいた。そんな光景を前に、男達は下卑た笑いで見つめていた。まるで愉快なショーでも観覧しているかのように。
『どうしたら…楽を助けてくれるんですか』
「は?さっき言ったこと聞いてなかったのか?助けるつもりはねぇよ。
こいつが今日の舞台に出れねぇようにする。二度とテレビに出れねぇような顔になるまで切り刻む。それが俺の目的だ」
『…は?』
「あぁあと、喉を潰すってのも忘れちゃいけねえよな」
あまりに残忍なことを笑って話すものだから、すぐには男の言葉が理解出来なかった。
「俺のことを、もうアイドルとしてやっていけなくする。それが、お前の目的か?何の為に?」
「お前が居ると、邪魔なんだよ。TRIGGERが人気が上がればその分、ŹOOĻがテレビに出れなくなるだろうが」
“ この男は変わらないよ。人はそんな簡単に本質を変えることは出来ないのだから ”
これは、誰の言葉だったろうか。あぁ、そうだ。了の兄が口にした台詞だ。
私は了を信じていた。変わってくれると。ŹOOĻを、TRIGGERのライバルとして正々堂々戦える道を、あの4人と共に進んでくれると。
しかし、そうではなかった。まだこんな卑劣なやり方で、他者を貶めようとするなんて。
『……はぁ。やっぱり あの時に、警察に引き渡しておけば…もしくは、この手で…』
だがしかし、黒幕が分かれば対策も立てられるというもの。了が最も欲しいのは、私でありLioの存在。交渉は容易いだろう。
『分かりました。降参しますよ。ほら、だからさっさと了と携帯繋いで』
「あ?何言ってんだテメェ」
『私は彼の言うまま、デビューでも何でもしてやるって言ってんですよ。だから早く解放し』
「血の流し過ぎでトチ狂ったか?
了なんて男、こっちは知らねぇんだよ」