第106章 ねぇよ
————
それから、またしばらくの時が流れた。私は磨りガラスのドアに引っ付いて、中の様子を窺う。どうやら今日は、鷹匡は来ていないらしい。ほっと一息吐いたとき、中から3人の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「っん、ふ、ふふ!っ、ごめ、」
「酷いよ天!そこまで笑うことないじゃないか!」
「いーや、天がこうなるのもしゃあない。ほら龍!今度は悲しそうな顔してみろ!」
『楽しそうですね。何があったん』
「っ、春人くん!?待っ…」
驚いて私を見つめる龍之介の頭の上には、なんと可愛らしい犬耳がぴょこんと生えていた。彼は見る見る顔を赤くさせたのだが、それがさらに愛くるしさを増加させる。何を言って良いのか考えながら、私はそのお耳を凝視し続ける。すると、茶色い両耳がぴこぴこと動いた。
「ちょ!楽!何で今また動かしたんだ!?」
「いや、今しかないと思ったから」
「っ、ふ、っくくく、ごめ…!」
楽は真顔で、手にしたコントローラーを操作していた。天はツボに入ってしまったらしく、言葉を発するのも難しそうだ。
私は龍之介の前まで歩いて行き、頭に手を伸ばす。
『これ来るの今日だったんですね。話には聞いてましたけど、うわ本当にリアルで…。ふふ、ふわふわ』
「〜〜〜っっ」
背伸びをして、そこをふみふみ触っていると、龍之介がさらに茹でダコのようになる。それと同時に、ボワッと耳の毛が逆立った。どうやら、また楽が操作したらしい。
『今は本物の耳を隠してないから、合計で耳が4つあるのがシュールですね』
「あの、春人くん…、も、もういいから、離れて…!」