第106章 ねぇよ
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レインボーアリーナにて行われる舞台まで、残された時間は2ヶ月だ。出来る限り仕事量をセーブし、捻出した時間を全て練習に充てる。
5日ほどで、3人が練習中に本を手にすることはなくなった。私に何かが出来るわけではなかったが、それでも可能な限り彼らの傍いたかった。
広報の仕事を終えレッスン室に行くと、その日も3人は稽古に励んでいた。そして今日は、その傍らにもう1人…。
『…ぅ』
「やぁ。お疲れ様」
『お疲れ様です』
わざわざ距離を取るのも変だろう。私は、鷹匡の隣に並び立った。
「君は、よほど僕のことが苦手みたいだ」
『えっ、いや!そんなことは』
「悲しいな。君に嫌われるようなことをした覚えが、全くないんだけどね」
嘘は簡単に見抜かれてしまう。もう何を言っても意味を成さないだろう。
私達は口を噤み、声を張り身振り手振り演じる3人に魅入る。すると、ふいに鷹匡が熱のこもった声を漏らす。
「惚れ惚れしてしまうよ…。さすがは天だ。何をやらせても僕の期待以上で応えてくれる」
『天が、素晴らしいことは同意です。ですがそれは、楽も龍之介も同じだと思います』
「……同じ?天と、彼らが?」
そのぎょろっとした目を、こちらに向けないで欲しい。やはり私は、彼が怖い。
「まぁ、そうだね。ルビーもサファイアも磨けば美しい光を見せてくれる。でも、やはりダイヤモンドには敵わない」
前者だって、美しい宝石に違いないのに。彼の中では、ダイヤモンド以外は全て偽物なのだろう。
天だけが本物で、唯一無二。
鷹匡は、いつか気付くのだろうか。ダイヤと同価値の、ルビーとサファイアがこの世に存在することに。