第105章 幸せになれると思う未来を掴み取るだけ
『龍は、引かないかな。別れてたった数ヶ月で、他の男と私が付き合ったりして』
「引かないよ。ていうか、キミの方がフられたんだけど。忘れちゃった?」
『そ、そうでした』
「キミって、図太そうに見えて繊細だよね」
『面倒な奴でごめん』
「ふふ。別れた男に嫌われたくないなんて、そんな都合の良いこと考えてないで。さっさと楽に告白して幸せになってよ」
天のその言葉を理解するのに、かなりの時間を要した。茫然自失同然になる私の顔の前で、天は手をひらひらさせる。
『私、が?楽に、告 白…』
「当然。どうせキミは楽に何度も告白されてるんでしょ?だったら、一度くらいキミの方から好きって言ってあげても良いと思うけど」
『……ス、き?』
「愛してるでも可」
楽に愛を囁くシーンを想像しただけで、頬がかっと熱くなった。以前 寝ている彼にそうしたことがあったが、あの時とはわけが違う。何しろ、私は自分の気持ちに気が付いているのだから。
『む、無理無理、ほんと無理っ!だって最近は仕事中でも楽のことが気になり過ぎて、気が付けば視線がそっち行ってて、あれ?楽ってこんな顔良かったけ?とか、なんか無駄にキラキラはしてるな?って眩しく感じちゃって直視すら難しいのに!』
「出てる。素が出てる」
天に白けた目を向けられて、私ははっとし春人を取り戻す。
『失礼しました。とにかく、天と龍の気持ちは理解しました。ありがたく受け取っておきます。ですが』
「ですが?」
『もう少しだけ、時間を下さい。私の中できちんと気持ちを整理するには、やはりもう少しかかりそうなので』
私には、龍之介との恋がまやかしであったとはどうしても思えない。彼のことをきっぱり切り捨て、次に進もうとはまだ考えられなかった。
「整理がついたら、するの?告白」
『私から告白…そうですね…
それこそ、謎の悪者に私と楽が銃口を突きつけられて もうまさに今2人の命が散らんとするような状況になれば、するかもしれません。死ぬ前に、後悔の種になりそうなものは取り除いておかないと』
「そんな状況に陥らないと踏ん切りが付かないんだ。とんだ意気地なしだね」
『て、天…!そろそろ私の体力ゲージは赤ですよ!』
「愛故にだよ、愛故に」
愛がカバー出来る範疇を、もうとっくに超えていると思うのだが…。
