第105章 幸せになれると思う未来を掴み取るだけ
『それにしても、貴方と龍のことが分かりませんよ。何がどうして、そんなに私と楽をくっ付けようとするのか』
「バレてた?」
『バレるでしょう』
楽と私を無理やり2人きりにしてみたり。好きなところを言葉にさせようとしてみたり。今から考えれば、あからさまだ。
「側(はた)から見てて、もどかしいだけ。もう自覚してるんだから、早く付き合えっちゃえばいいのに」
『人に言われないと気付けなかった気持ちなんて、どうせ大したことない』
「気付いたら最後、止められないと分かっていたからこそ、キミは自分で自分の気持ちに蓋をした」
『違っ』
「ねぇ、考えることをやめないで。悲劇のヒロインを気取るのも、思考を停止して立ち竦むのも、そんなのはキミらしくないでしょ?
決断するのが怖いなら、こっちに寄り掛かってよ。ボクはキミの力になる。そう約束出来るから」
天の眼光は、もう尖っていなかった。こんなふうに手を差し伸べられては、心に着せた鎧など跡形もなく消し飛んでしまう。私はいつしか、目の前に現れた天使のような彼に縋るような声で訊いていた。
『私、は…』
「うん」
『もう、間違えたくない。どうするのが…一番、良いの?どれが正解なのかな』
「決まってる。キミが、一番幸せになれると思う未来を掴み取るだけ。ほら、簡単でしょう?龍が心に負った傷を、癒える傷にしてあげられのはキミだけだよ」
『でも…私だけが、幸せになるなんて。そんなの、間違ってない?』
「断言する。この世に、キミの幸せを願っていない人間なんて誰一人存在していない」
いつも思うが、天の言葉には魔力がある。どれほど都合の良い空論だって、本当にそうなのかもと思わせてくれるのだから。