第105章 幸せになれると思う未来を掴み取るだけ
「うわぁ。金に物言わせて全部買ったんだ?」
楽屋に帰った私達に、天は言ってのけた。
「お前な…いけしゃあしゃあと…っ!」
「嘘だよ。ありがとう。
それはそうと…2人で出掛けたはずだよね。それなのに、どうして倍以上の人数になって帰ってくるわけ?」
天は、計算が狂ったとでも言いたげな苛立ちを見せていた。そんな雰囲気をいち早く察知した、万理と壮五。環は気付いているのかいないのか、天の持つドーナツをねだる。
「なぁなぁ。ドーナツ、それ全部食うの?ぜってー多いよな。何個か貰っていい?」
「…いいよ。でもこのピンクのはボクのね」
「やった!んじゃ、コレ俺のー!」
「すっ、すみませんすみません!お忙しい中突然お邪魔したあげく、九条さんの大切な糖分を環くんが奪ってしまい!」
「顔を上げて壮五くん!全然大丈夫だから!」
そんなやり取りがされるすぐ隣で、ドーナツを平らげた環が部屋の隅へ駆けていく。そして、私の名を呼び手招きをした。
『なんですか?』
「いーから!ちょっとこっち来て!ダッシュで!」
招かれるまま、私は環の元へ行く。ダッシュはさすがに遠慮したが。
どうやら彼は、私だけにしたい話があるらしい。口元に付いたドーナツの欠片をハンカチで拭ってやってから、私は耳を貸す。
そんな私達を、そわそわと離れた場所から楽は見守る。
「八乙女くん、どうもすみません。うちの子が、また中崎さんに迷惑をかけてしまって。何を話してるんでしょうね。それにしても、あの2人は本当に仲良しだなぁ。そう思いません?はは」
「い、いや、べつに…!俺はそういうの、全く気になりませんから…」
「……」
(大神さん…)
「……」
(う、上手い!)
何故か、万理に尊敬の眼差しを向ける天と龍之介であった。まさか彼ら3人が、同じ目的を持っているなどと私は思いもしない。