第105章 幸せになれると思う未来を掴み取るだけ
「えっと。俺のオススメは、これ」
私と楽の間から手がにゅっと伸びて来て、ミルクチョコレートがたっぷりとかかったドーナツの袋を取った。驚いて、声の主の方へ勢い良く顔を向ける。
そこには、にししと歯を見せて笑う環がいた。
「四葉じゃねぇか。お前も買い出しか?」
「うす。中崎さん、こんにちわ」
『あ、こんにちは』
「環くん!挨拶出来るのはすごく偉いけど、八乙女さんにもちゃんと挨拶して?」
と、少し遅れて姿を現したのは壮五であった。この2人がいるということは、と。壮五の後ろに視線をやれば、やはり彼、万理は立っていた。
私と楽が、菓子コーナーの棚の前に並んでいるのを見て、にこにこにこにこ意味のない笑顔を浮かべている。
『……その顔、やめてもらえます?』
「え?あはは、やだなぁ。何も言ってないじゃないですか。はは」
『顔がうるさいんですよ!』
「ははは、酷いなぁー」
私は、万理の両肩を掴んでぐわんぐわんと体を揺すった。だが、相変わらず彼の口元は弧を描いていた。何がそんなに嬉しいことがあるのか。ただ、私と楽が2人きりで買い物をしているだけだというのに。
「あの…八乙女さん。中崎さん、何かご乱心なんですか?」
「さぁな。俺の方が知りたいぐらいだ」
結局、私達はドーナツを全種類ひとつずつ買って楽屋へと戻った。