第105章 幸せになれると思う未来を掴み取るだけ
「本人が気付いてなかったとしても、俺が、気付いちゃったから。一度知ってしまったら、見て見ぬ振りは出来ないかな。やっぱり」
自分だけの幸せを願うような男であれば、こんなふうに傷付かないで済んだろうに。こんなにも悲しい笑顔を浮かべずに済んだろうに。
「ねぇ、龍。これは、決して気休めで言うとかじゃ、ないから」
「うん?」
「彼女は…エリは、間違いなくキミに恋をしていたよ。キミだけを、愛していた時間は確かにあったから。だから、エリへの恋心は消してしまっても、2人の思い出だけは忘れないで欲しい」
「天…。うん、うん!ありが」
「っていうか、一度も選んでもらえなかったボクなんかよりも龍の方がずっと恵まれてるって思わない?なんか、普通に羨ましくて悔しくなってきた」
カップの中の珈琲を飲み干して、湧いてきた本心を吐露する。そんなボクを見て、龍之介はきょとっと間の抜けた顔になった。
「え…っあ!そ、…やっぱり、天もそうだったのか!いや、なんとなく、そうかなーって思ってた瞬間もあったんだけど!なんか、いっぱいいっぱいで、本能的に否定しちゃったっていうか!あぁ何て言ったらいいんだろう!とりあえず…、ごめん?」
「謝罪の言葉以外なら何でも受け入れられたんだけどね」
ボク達は、2杯目の珈琲を前に仕切り直す。
「まぁ、そんな優しい優しい龍のおかげでエリも、楽への気持ちを自覚した頃合いだとは思うよ。でも…自信を持って言えるんだけど、このまま放っておいても2人は絶対に引っ付かない」
龍之介は、深刻そうに表情を暗く落として頷いた。